『エグゼキュティブ・レディース』の先発は、社長秘書のエミー南条。
愛人になってくれという申し入れを断られた助平オーナー(OTTO)のいやがらせで、格闘技経験が無いにもかかわらずレスラーとしてリングに上がることになった経緯がある。
「エミー、気を付けて! 奴らの強さは本物よ。」
「社長、心配しないで下さい。私だって伊達にトレーニングを積んでたわけじゃありませんから。」
力強く答えるエミー南条。眼鏡を外し、表情を引き締め構える姿はプロレスラーそのものだ。
(確かにあいつらは強いわ。マリ社長が心身ともに万全で、やっとどうにかという所かしら。とても私の実力じゃ、未だ。。。でも、やるしかない。)
ゴングと同時に果敢に突っ込むエミー南条。
だが、ブラッディー・タイガーは余裕の表情で組み止める。
「なんだい、こいつの動き。まるで素人じゃないか。」
フロント・ヘッドロックで極めておいて、膝蹴りをエミーのボディーへ叩き込む。
一発、二発、三発・・・
「ゲホッ、ゲホッ。」
「そおら、これはどうだい。」
ブラッディー・タイガーの猛攻は止まらない。女子レスラーの中では屈指の怪力を誇るブラッディー。軽々とエミー南条の体をリフトアップするとデッドリー・ドライブでマットに叩きつける。
まともに受け身もとれずに、背中から危険な角度でマットに叩きつけられたエミー南条。あまりの激痛で呼吸ができず、マット上で悶絶する。
「あうっ、あうっ。」
一方のブラッディ・タイガーは自軍コーナーへ声をかける。
「ノワール、今だよ!」
間髪いれず、コーナートップからタイガー・ノワールの急降下爆撃だ。
エミー南条のボディに深々と”ノワール”の膝が突き刺さる。
「ぐはっ!」
個々の実力もさることながら、抜群のタッグプレーを見せる『ヘル・タイガース』。まさに圧倒的な強さだ。これが北米メジャー団体トップの実力なのか。
危うしエミー南条。このまま、秒殺されてしまうのか。
負けるな『エグゼキュティブ・レディース』!。WSMを守るんだ!!
WSM公式タッグ戦、Bブロック1回戦、第2試合。
現WSM社長の澤上マリと社長秘書兼重役のエミー南条のタッグ、『エグゼキュティブ・レディース』と、北米メジャー団体AAWWの刺客”ノワール”と”ブラッディー”の『ヘル・タイガース』の対戦。
『ヘル・タイガース』のWSMマットデビューでは、澤上マリの試合に乱入、完全失神寸前にまで追い込んでおり、因縁の対決だ。
ところが、試合開始時間になっても姿を見せない『エグゼキュティブ・レディース』。
ここで、リングアナのマグニフィセント・権三が状況を説明する。
「ただいま、澤上マリ選手がコスチュームに着替えております。会場の皆様、もう少しお待ち下さい。』
(今度は、どんなエロいコスで出てくるのかなあ、マリ社長。楽しみだぜ。)
一方、一足先にリングインして相手を待つ『ヘル・タイガース』。余裕の表情だ。
「しかし、遅いねえ、ノワール。あんたの指定したコスチューム、相当エグかったから、出てこれないのじゃないのかい。澤上マリの奴。」
「いいえ、彼女はきっと来るわ。前回はあと少しのところで、仕留め損なったからね。今日は、観客の前でたっぷりと赤っ恥をかかせた上で、止めをさしてやろうよ。」
試合開始時間から送れること15分。ようやくリングインした『エグゼキュティブ・レディース』。
珍しくガウンを着て登場の澤上マリ。いつもは、WSM社長として毅然とした態度を崩さない彼女だが、頬を赤らめてうつむいている。そして、いつもの彼女からは信じられない言葉が。
「エミー、私、恥ずかしい。」
「マリ社長、大丈夫です。心配しないで。」
(いつも気丈な社長が、いったいどうなっちゃったの? でも、こんな時こそ社長をサポートしなきゃ。私、秘書なんですもの。)
ガウンを脱いだ澤上マリ。
そのコスチュームは、ワイヤー状のセクシー・水着だ。胸を覆う布部分の面積の小ささから、下半身部分も相当際どいことが予想できるが。その腰には、パレオが巻かれている。
エミー南条が機転を利かせて、控え室で有り合せの材料でパレオを作ったのだ。
「貴方達、社長に恥をかかせようったって、そうはいかないわよ。」
「ちょっとなんだい? そのパレオは。対戦相手の指定したコスチュームを着るのが、公式戦のルールじゃなかったのかい!」
激しく抗議する、ブラッディー・タイガー。
「そうですぞ、社長自らルールを破っては他の者に示しが付きませんなあ。」
(おいおい、なんだよ。あのパレオは。あの下がどうなってるのか早く見たいぞ~。)
公式戦へ選手としての参加を止められたマグニフィセント・権三も、ここぞとばかりにはやし立てる。
「まあ、待ちな、ブラッディー。お楽しみは後へ取っておこうじゃないか。それにしても、マリさん。WSMの社長様ともあろうお方が、なんて顔してるんですか、ええ? ほっほっほっほ。」
マリを嘲笑するタイガー・ノワール。
前回の対戦で澤上マリを屈服させるには、肉体的にいくら痛めつけても無駄なことを悟り、今回は精神的にも徹底的にいたぶるつもりなのだ。
マリ社長、こんな奴らに負けちゃダメだ!
がんばれエミー、マリさんの分もしっかり闘うんだ。 WWAAの奴らなんかぶちのめせ!
試合に勝利したにもかかわらず、『デーモン・クロー』のリンチを受け続けるパンサー・ミミ。
その時、凛とした声がリングに響き渡る。
「止めなさい! これ以上は、もう許さないわ!」
声の主は赤コーナーのトップに姿を現した、白尽くめの謎のマスクウーマンだ。
コーナーポストから高々と飛び上がった謎のマスクウーマン。
パンサー・ミミをいたぶっていたキマイラの後頭部にミサイルキックだ。
「ぐはっ!」
たまらず、ダウンするキマイラ。
パンサー・ミミをいたぶる楽しみの最中に、予期せぬ邪魔が入り、苛立ちを隠せぬデーモン・レイカが問いかける。
「お前、いったい何者だい?」
「私は、スノー・ホワイト! 『エンジェル・ナイツ』は私が守る。」
「何、言ってるんだい。スノー・ホワイトは病院送りにしたはず。それに、お前、全くの別人じゃないか。」
「そう、それなら、スノー・ホワイト2世、ホワイト・キグナスとでもしておきましょうか。」
ホワイト・キグナスと名乗った、謎のマスクウーマン。
顔の大半は白いマスクで覆われているものの、強い意志を秘めた切れ長の眼は、素顔が並外れた美人であることをうかがわせる。
また、白尽くめのコスチュームに包まれた肢体も、抜群のプロポーションだ。
「これ以上やるというなら、私が相手になるわ。」
「ふん、面白いじゃないか。ボロボロのミミをいたぶるのにも、すこし飽きた所だったんだよ。良いだろう、ホワイト・キグナスとやら。お前をミミのパートナーとして認めてやろうじゃないか。」
「望む所よ。貴方達、公式戦で叩き潰してやるわ!」
「舐めるんじゃないよ、今日の借りは倍返しにしてやるよ。『デーモン・クロー』を敵にまわしたこと、必ず後悔させてやるよ。」
『デーモン・クロー』の去ったリング上、ダウンしているパンサー・ミミに手を差し伸べるホワイト・キグナス。
「ミミさん、大丈夫ですか?」
「貴方は・・・」
その声から、正体に気づいたミミが思わず続く声を飲み込む。
「私も一緒に戦わせて下さい。お願いします。」
「この試合を見てわかるように、私は常に『デーモン・クロー』の標的にされてる。リング上、いやリングの外でも何をされるかわからないのよ。貴方にそれに耐えられる覚悟はある?」
「はいっ!」
決意を秘めた真摯な眼差しを見たミミが、ようやく顔をほころばせる。
「わかったわ。でもやるからには絶対優勝するわよ。」
「もちろんです。」
固い握手をかわす2人。新タッグチームの結成だ。
パンサー・ミミが、Fairy Youの勇希を始めとする若手レスラーの申し出を断って、敢えて一人で参戦したタッグ戦。その真意は、標的にされるであろう自分のパートナーが危険に陥るのを危惧してのことだったのだ。生半可な実力と覚悟ではミミのパートナーは務まらない。
ようやく心強いパートナーを得たパンサー・ミミ。このまま、勢いに乗って優勝だ! がんばれミミ、そしてホワイトキグナス!
試合結果:○パンサー・ミミ (失神KO) ナイトメア/ジャイアント・ベヒモス×
Bブロック 1回戦 第1試合 -完-
激闘の末、勝利を収めたパンサー・ミミ。
しかし、ベヒモスの攻撃を受け続けたダメージは大きい。精根尽きて、がっくりと膝をマットに付く。
「はぁ、はぁ、さすがに一人はきついわね。これから、この膝がどこまで持ってくれるか。」
あまりにも鮮やかなミミの逆転劇に、乱入の機会を逸したせーモン・レイカが漸くリングイン。
「しかし、手負いの女一人にやられるなんて、情けない奴らだねえ。」
「レイカ、何の用? 試合は終わったはずよ。」
「ふん、良いだろう。この試合はお前の勝ちを認めてやるよ。でもね、リングナースとして、今後の試合に耐えられるかお前の左膝をチェックしなきゃね。」
「いったい、何をする気?」
「このまま勝ち逃げしようなんざ、甘いんだよ。」
レイカの合図でリングインするジ・エクスキューショナーとアブドーラ・ザ・キマイラ。『デーモン・クロー』の中でも上位の強豪だ。
パンサー・ミミを取り囲む、『デーモン・クロー』のトップレスラー3人。じりじりと包囲網を縮めていく。
「くっ、卑怯な。」
さすがのチャンピオン、パンサー・ミミも、左膝の負傷と直前の試合のダメージが大きく、あえなく捕まってしまう。
身動きできないミミの左膝にローキックを次々に叩き込む、キマイラとレイカ。
ビシッ!
「ううっ!」
バシッ!
「うぐッ!」
・
・
「痛みを感じるってことは、まだまだ大丈夫だねえ。よーし、次行こうか。」
すでにボロボロのパンサー・ミミの左膝を、ジ・エクスキューショナーが膝十字固めで締め上げる。
ギシギシ。
通常と逆方向に、怪力で曲げられるミミの左膝が悲鳴を上げる。
さらに、ベヒモスのベア・ハッグでダメージを負ったミミの腰に、キマイラがニードロップを叩き込む。
「あうっ、くふうっ。」
苦悶の表情を浮かべ必死に手を伸ばすが、そこにパートナーはいない。孤立無援のパンサー・ミミ。
「ほーほっほ、これじゃあ2回戦は無理かもねえ。」
マットにデーモン・レイカの高笑いが響き渡る。
試合のに勝ったはずのパンサー・ミミを理不尽に痛めつける『デーモン・クロー』。ミミの左膝は、既に限界を超えている。このまま、レスラー生命を絶たれてしまうのか?
パンサー・ミミ絶体絶命!
ジャイアント・ベヒモスがコーナーから飛び上がった瞬間。
失神していたはずのパンサー・ミミが上半身を起こし、ナイトメアーの左足に絡みつく。
「こ、こら、止めろ!」
バランスを崩し、あわてるナイトメアー。
1対2、しかも自身の左膝の負傷という絶対的な不利な状況。勝機をつかむため、これまでベヒモスの猛攻にも耐えに耐えて一瞬のチャンスにかけていたのだ。
前のめりに倒れるナイトメアーの上に、ベヒモスの巨体が降ってくる。
「あわわわ。」
「よけてくれ~!」
ズシーーン!
ベヒモスのボディプレスの衝撃で、リングが壊れるかと思われるほど激しく振動する。
「ウギャッ!」
巨大な肉塊の下敷きになった哀れなナイトメアーは、うめき声を上げると意識を失ってしまった。
間一髪でかわしたパンサー・ミミ。
「はぁ、はぁ、危なかったわ。あんなの、まともに喰らったら。」
怒り心頭のジャイアント・ベヒモスがパンサー・ミミをロープ際に追い詰める。
「この野郎、俺のベア・ハッグをもう一度お見舞いしてやる。」
「同じ技を、二度も喰らうもんですか。」
上体をかがめて、かわすミミ。
空をつかんだベヒモスがバランスを崩し、その上半身が大きく場外へせり出した瞬間。
ロープの反動にタイミングを合わせて、パンサー・ミミが300kg近いベヒモスの巨体を担ぎ上げる。ベア・ハッグで痛めつけられた腰と、負傷している左膝を激痛が襲うが、気合もろとも一気にベヒモスを場外へ叩き落す。
「とおおっーーー!」
地響きを立てて、脳天から場外へ落ちたベヒモス。自分の体重が仇となり、完全KOだ。
絶体絶命の危機からの鮮やかな逆転劇!
強い、あまりにも強い! これがパンサー・ミミだ!
チャンピオンベルトは伊達ではないのだ。
凄いぞ! パンサー・ミミ!
このまま、一回戦突破成るか?